からの週末20201123(月)
まわりまわってまわりくどい極私的映画論①
▼僕の映画の師匠であるイラストレーターのT君は、傑作映画の条件を「ひどい人生だったはずなのに報われる映画」だという。独特な切り口がおもしろいけれど、その条件はジャンルということ。アクション映画、ミステリー、復讐ものが好きなどの〝ジャンル〟のひとつとしての「ひどい人生だったはずなのに報われる映画」。に対して僕の傑作映画の条件は「逢いたくなる映画」だった。そんなことをこのコラムでも書いたりなんかしてみた。でも、それから3ヶ月がたったいま、なんだか抽象的だよなぁ、なんでも小難しくしやがるな俺は、もっとシンプルに一般的なジャンルで考えてみるとなんなのだろうと、ふと思ったこの週末▼まず、思い浮かんだのはジャンルわけではなく『サイダーハウス・ルール』という映画のタイトルだった。1999年製作のアメリカ映画で、原作はジョン・アーヴィング。監督は『僕のワンダフル・ライフ』などの巨匠・ラッセ・ハルストレム。ちょいとググッてみるとこの映画のジャンル分けとしてまぁまぁの多数派が〝ヒューマンドラマ〟であった。なるほどなるほど。孤児園で育った主人公が外の世界を見てみたいという好奇心を捨てきれずに、実は居心地のよい〝故郷〟から旅立ち、多くの人と出会い、夢のような恋愛体験や現実的な人種のこと(奴隷ではなく労働者ではあるが黒人がりんご園で働いているような時代設定)などの経験を経て、物語の最後に主人公が選択することが心を打つ映画だから、たしかに〝ヒューマンドラマ〟という括りは言い得て妙だ▼となると、これから発表しようと思った僕の〝シンプルに一般的なジャンル〟がまたしても抽象的な気がしてきた。そもそも、ことの発端である師匠の「ひどい人生だったはずなのに報われる映画」を世にあまたあるジャンルのひとつと感じたのも、自分の「逢いたくなる映画」との比較という意味では抽象的じゃないってだけで「ひどい人生だったはずなのに報われる映画」という条件はまったくもって一般的なわけじゃないようだ。だって「ひどい人生だったはずなのに報われる映画」でググッてみたが、そういうジャンルわけは存在せず、さりとて〝映画〟というワードが含まれるので、とあるサイトにはたどり着き、そこで紹介されいた映画が『ボヘミアン・ラプソディ』だった。個人的には嫌いじゃない映画だったけれど師匠の好みからすると、うーん、どうなんでしょう? というか、検索するなら、先にしろ!と書いている本人が痛烈に思っているので的確なツッコミはご容赦いただきたい▼案の定、書こうと思っていたこととパソコンに浮かび上がる内容とがずいぶん違くなっているいま、書いている本人がなにを感じているかというと、マジでお前はなんでも小難しくするなぁ、そんなふうだから劇団時代に「お願いだから、ただ笑いたいだけのコントに社会性を盛り込まないでくれ」とダメだしされるんだよという自省の念と、かつて芸人さんが使い始めていまでは一般化したあの言葉がリフレインされている。いわく「ハードルが高い」。そうなんです。「逢いたくなる映画」よりかは抽象的じゃないジャンル分けで、それで今週思ったことをつらつらと気楽に書こうとしただけなのに、ああだこうだと言いすぎて、そのジャンル分けが書きにくくなっているっていう袋小路状態だったりする▼なので、あっさりとハードルを下げますね。「師弟もの」。いやいや、たいしたジャンル分けじゃないんですが、僕が好きな映画のジャンルはコレです▼こうゆう文章の流れなので「映画 師弟もの」でググったところ、あらまぁびっくり。びっくりというか、これがまためんどくさい展開で、全然、まったくもって抽象的じゃなかった。ちゃんとシンプルに一般的なジャンルになっているようで「麗しき男たちの師弟映画」だの「師弟の絆溢れる映画特集」だの「アツい師弟関係が楽しめる映画」だのといったサイトにたどり着いた。だ・か・ら。「映画 師弟もの」を先に検索してから書けよと再び思いつつ、でもそうしちゃったら今回の週末は数行で終わっちゃってたかもで、結果論としてはよかったよかった▼……とはならないのが我ながら本当にもうめんどくさい。傑作映画の一般的な条件に師弟ものはあると。そういう特集を組んでいるサイトもあったと。でもですね、そこで紹介されている映画の多くが『ロッキー(新シリーズほう)』や『ベストキッド』などの、いわゆるスポ根ものの系譜である映画たちなのが引っかかって仕方がない。逆に言えば『サイダーハウスルール』を師弟ものとして紹介しているサイトなんてありゃしない。なんなんだ? いったりきたり、近づいたり離れたりする、自分と世間との感覚の差は。少数派なのか多数派なのか、どっちなんだろう?▼というわけで、我ながらタイトルだけはいいやつを考えたなぁと思える「まわりまわってまわりくどい極私的映画論」は来週に続く!……はずです(唐澤和也)