からの週末20201101(日)
自由に追いかけられた僕の週末
▼自由が僕を追いかけてくる▼完全に時代遅れと我ながら思うが、自宅と事務所とを分ける際に「絶対に家で仕事しない!」という誰に対して意地になってたんだかよくわからない決意を結んでしまったせいで、自宅にはインターネット環境が整っていない。逆に、インターネット環境が整っている事務所では「趣味らない!」と決めているので、映画の類は見られない。なもんだから、というのと、単純に店頭で映画を選ぶのが好きというのもあって、中目黒TSUTAYAでレンタルするのが楽しみのひとつだった。そう、だったのだったのだ。いつだって過去形って悲しいけれど、中目黒TSUTAYAの悲しみは未来完了形の悲しみで、11月15日に閉店することになったのだという。そもそも、地元の学芸大学TSUTAYAが閉店したのはいつだったか。あの時の衝撃とショックはちょっと忘れられない(いつ閉店したかは忘れたけど)。それでもなんとか立ち直り、祐天寺店、中目黒店とTSUTAYAファンを続けてきたというのにこのご無体な仕打ち。いや、仕打ちじゃなくてそれが世の流れとはわかってはいるのだがやっぱり悲しい。いま一番嫌いな漢字2文字は「閉店」です▼だが、そんな僕にも希望が残っていた。TSUTAYA武蔵小山店である。自宅から歩いて25分。いや、すみません、これまた誰にはってんだかわかんない見栄をはりました。30分、いや、まだまだ意味不明な見栄をはってるな、正直に書くとゆっくり歩くので40分ぐらいをかけて、TSUTAYA武蔵小山店に行くのが超繁忙期のいまのお楽しみだったりする▼さて、自由が追いかけてくる話だった。サブスクのこの時代にリアル店舗でレンタルするという、なんとも不自由なことをし続けている身だというのに、自由が追いかけてくる話だった▼最初の「自由」はTSUTAYA武蔵小山まで半分ぐらい近づいた時のスナックの看板だった。スナックの看板といっても歩いていたのは、午前11時とかだったから、派手派手しいネオンチックなものではなく、右から左に宣伝のための文字がすいーっと流れているあの手の看板だった。そんな看板にたまたま僕が目をやった瞬間に追いかけてきたのが「自由!」。なにが自由なんだろうと気になって<昼カラオケ><どうぞ!>などの宣伝文句を目で追っかけていると、<おかわり><自由!>の自由だった。うん、ビールでもサワーでもハイボールでもおかわりは自由なんだな。スナックというものにほとんど行かないのでそれがふつうかどうかもわかんないけど、たぶんふつうだと思う。ふつうな自由がTSUTAYA武蔵小山店にあと15分ぐらいのスナックの看板で流れていた▼で、散々っぱらTSUTAYAで映画を借りるのが楽しみと書いておいてなんだが、今週の僕は映画な気分じゃなかった。というか、映画を2時間見る余裕がなかった。こういう時は漫画に限る。しかも1周はしていて〝鉄板〟として楽しめる漫画を10冊ぐらい借りて1週間かけて読むのに限る。というわけで、コメダ珈琲武蔵小山店で、ルフィが叫んでいた、「自由だ!」と▼ワンピースの愛読者ならあの漫画と「自由」の相性のよさはご存知だろうから、さほど追いかけられてる感はないかもしれないが、まだまだ自由が僕を追いかけてきた。武蔵小山のスナックとルフィの自由が土曜日の出来事なのだが、なんだかんだと仕事が終わらなかった本日日曜日の昼ごはん。饂飩すずらんの「肉王」(ねぎ追加)を頼んで、持参していた漫画を読んでいると「自由」の2文字が飛び込んでくるではないか。ワンピースではない。仙台出身で世界一のジャズサックスプレーヤーを目指している主人公が、(個人的な漫画読書体験史上かなり上位に数えられる)切ない日本での出来事を経てヨーロッパに渡り徐々に成功に近づいている漫画「ブルージャイアントシュプリームス11巻」である。そんな傑作漫画の登場人物のひとりであるフランス人ドラマーがこう言う。「つまり、ジャズは自由な音楽だろ?」▼おかわりも、ワンピースも、ジャズも自由がいい。自由に限る。ビバ、自由だ。そしてこんなにもゆるいテーマでも許されるこの連載も自由でいいなぁと口角をあげながら筆を置く週末です(唐澤和也)