からの週末20200927(日)
クレジットにまつわる些細な考察
▼クレジットといってもボーナス1回払いとかリボ払いとかのクレジットカード系のはなしではなくて。僕たちライターの業界でいうと雑誌などに掲載される「取材・文/唐澤和也」的な部分をクレジットと呼びます。今週はたまたまテレビCMで見かけてしまった新作映画にまつわるクレジットのはなし▼そのクレジットこそ、監督 内田英治「全裸監督」。どどーんと大きな文字が視界に飛び込んできた瞬間、おなかのあたりから頭のてっぺんまで、鳥肌が突き抜けた。草彅剛主演による新作映画『ミッドナイトスワン』の予告編の一コマだった。いま、YouTubeで確認した30秒バーションのほうには〝監督脚本 内田英治「全裸監督」「下衆の愛」〟とあったので、僕の見間違いかもしれないけど、監督 内田英治「全裸監督」という10文字の衝撃たるや、いままでに見た人生全クレジットのなかでもぶっちぎり1位だったのだった▼なぜにここまで衝撃を受けたかというと、この内田英治監督、元週刊プレイボーイのライターで僕を同誌に引っ張りあげてくれた大恩人だったから(ヒップホップ風にいうとフックアップというやつです)。なので、以下は内田くんとして文章を進めると、当時ライターだった内田くんには目標があり、それは映画監督になることだった。僕をフックアップしてくれたタイミングは、週刊プレイボーイを卒業して映画監督への道に挑戦するための〝後釜〟として僕を紹介してくれたというわけだ。いや、たぶんそうだったと思う。ちょっと記憶が曖昧なのは、その後の内田くんは週刊プレイボーイのライターに復活して一緒に仕事をしていた時期があったからまっすぐに映画監督にはなれずにいろいろと苦労があったのかもしれない。ただ、早い時期から映画監督を目指していたのは間違いなくて、2004年に監督デビューを果たし、インディーズ映画(って書いたら怒られるかな?)を撮り続け、世界の映画祭に呼ばれるような日本が誇る映画監督のひとりとなっていく▼内田くんは太陽か月かでいったら完全に太陽タイプの男で、週刊プレイボーイ時代はお互いにどろどろ&へとへとになって仕事をしていたのにいま思い出す内田くんの表情はいつも笑顔で、なんというか、身も蓋もない言葉でいうと〝いいヤツ〟だった。だから、昔の内田くんを知る週刊プレイボーイ関係者は『ミッドナイトスワン』の予告編での彼のクレジットを見た瞬間、僕と同様に興奮、あるいは感動しているはずだ▼しかも、ですよ。こんな偶然ってあるもんなんですね。まるで、今週は内田くん遭遇強化週間でもあったかのように『ミッドナイトスワン』の予告編に衝撃を受ける数日前にも〝内田監督〟と遭遇している▼毎週のお楽しみとして録画していた鶴瓶さんのA-STUDIOをなんの気なしに見ていると、この日のゲストだった伊藤沙莉さんをよく知る人たちのひとりとして、つまり周辺取材される側として内田くんが登場。番組をご存知の方はイメージがわくと思いますが、A-STUDIOの周辺取材はスチール写真で〝誰々に会ってお話を聞いてきました〟という流れで紹介されるのだが、伊藤さんが出演した『獣道』という映画の監督として内田くんが登場したというわけ。しかも、あの頃と変わらぬ太陽のような笑顔で。フェイスブックは「今なにしてる?」と聞いてくるけどその日の僕のフェイスブックには「びっくりしてる!」と書くしかなかった▼〝内田監督〟に主語を戻すと、『ミッドナイトスワン』の予告編30秒バージョンにある2文字のほう=脚本も手がけているのが見逃せない。週刊プレイボーイ時代だったか、その後しばらくしてからだったか「映画化されていない漫画でおもしろいのない?」と〝内田くん〟に聞かれて『国民クイズ』という漫画を推した記憶がある。とはいえ、なんてことはない会話で、内田くんの反応も「ふーん」ぐらいの温度感だったけれど、あの頃から内田監督の心のうちでは漫画原作とかではなくオリジナル脚本で勝負したいとの思いがあったのではないか▼そんなことをひとりで勝手に想像するのには理由があって、その後、内田監督の名が世界でも評価されるようになってからの2016年、数年ぶりに電話が鳴った時のことを鮮明に覚えているからだ。自身が監督した映画をよかったら見てほしい、会場はテアトル新宿だからと言う。そんな内容の電話をもらうのははじめてだったから<きっと自信作なんだな>と感じ、絶対に観にいくと伝えて電話を切る。『下衆の愛』という映画だった。漫画原作などではなくオリジナル作品で、脚本はもちろん内田英治。傑作だった▼『ミッドナイトスワン』も、久しぶりに劇場へ行ってみようと思う。内田監督にも内田くんにも内緒だけれど、実は未見の『獣道』も『全裸監督』もこの機会に見させてもらおうと思う▼本編の楽しみとは別にわくわくしているのは、映画館で観るであろう『ミッドナイトスワン』の大きなスクリーンに映し出される〝監督脚本 内田英治〟の8文字のクレジットを見たら、テレビサイズでも鳥肌もんだったのに、いったい俺はどうなっちゃうんだろうということ。鑑賞前なので同映画の情報をなるべく入れないようにしているのでわかんないけど、たとえば感動する映画でも、エンドロールではその8文字にニヤニヤしている予感がある。できればそのニヤニヤはいつもの僕のだらしのないそれじゃなくて、太陽のような内田くんの笑顔に似ているといいな(唐澤和也)