からの週末20200920(日)
合計4845ページの分厚いはなし

▼ヒゲが生えて生えて、生えている。いかんなぁと思いながら人と会う時もマスクしているし、ま、いっかでボーボーな金曜日▼ま、いっかじゃねーよ!と自分にツッコみつつ久しぶりにヒゲを剃ってみた土曜日。4連休の始まりだが後輩ライターKくんが事務所に来てくれて、ふたりでああだこうだとプロジェクトSのはじめの一歩に取かかかる。320→344→368→384。この数字、実はそのプロジェクトの1年目からの増ページのご様子。ざっくり言うと製品カタログなのだが、元々分厚かったのに年々厚みが加速している▼ここでふと自問自答モードに。最近完成したPAPER LOGOSは324ページだったし僕は<分厚いのがお好き>なのだろうか? 振り返ってみると、仕事としてかかわって過去一番分厚い本は編集担当の『ライセンスの9年本』という書籍で、504ページというずっしり感だった。これは、タイトル通りにライセンスという芸人コンビが大阪から上京したタイミングからまるっと9年間を大後輩&ライターの井上慶氏が追いかけたドキュメンタリーチックなインタビュー本なので、それはまぁ分厚くもなるってもの。ただ、不思議なのは「さすがにページ数を減らしましょうよ」という意見が版元からも一切出なかったということ。それどころか、版元の担当編集者もノリノリで分厚いこの本をおもしろがってくれた気がする▼この秋のPAPER LOGOSもそう。アートディレクターの中村さんに〝読む〟をコンセプトに文庫スタイルを考えていると初期の打ち合わせで相談したら「おもしろいですね。分厚ければ分厚いほどおもしろいですね」と呪文をかけられた。そう、あれは呪文だった。当初は200Pぐらいのふつうの文庫本をイメージしていたのに<たしかに分厚いほどにおもしろいかも?>と、クライアントに分厚い方向で相談してみると「324ページ!」と驚かれたので、こりゃさすがに無理かなぁと思っていると「おもしろそうですね!」とあっさりOK。ちなみに、その分厚さはこんな感じだったりします(※その分厚さをクリック)▼うーん、分厚いっておもしろ要素のひとつなのだろうか? そして自分は分厚い本が好きなのだろうか?▼本棚を見てみる。分厚い本を探してみた。『賃貸宇宙』が847ページで『源氏物語 上』は689ページ。やっぱり分厚いのがお好きなのかなぁと確信までは至らず視線を移してハッとさせられた。ぐっとフォーカスして視線が止まったのは『世界の終わりとハードボイルとワンダーランド』のハードカバーの単行本、初版。ページ数は618。高校3年生の時に夢中で読んだ村上春樹の小説だ。あまりにもおもしろくて、1週間ほど学校をずる休みして一気に読んだ記憶がある▼だからなのかもしれない。この多感な頃に読んだ小説がおもしろくて分厚い本=苦手とはならず、=おもしろいと体のどっかに記憶として刻まれているのかもしれない。だから、分厚いのがお好きなのかもしれない▼そんなこんなで本日の日曜日。プロジェクトSにも関わる撮影の立ち会いで、朝イチから国際展示場駅を目指した。たいした移動距離ではないけれど片道30分ぐらいは本が読めるなぁと思い、読みかけの数冊から1冊をチョイスしてスタジオに向かったのだが、その選択に我ながらちょっと愕然としてしまう。「インタビューというより、おしゃべり。」(著者は、ほぼ日の奥野武範さん)という、横書きでいろんな人のタイトル通りのやりとりが続くその本のトータルページ数はなんと447。自宅や事務所で読むのならともかく、電車の移動でかくも分厚い本をフツーは選ばないのかもしれない。なのにまったく気にならなかった自分。というか、最寄りの学芸大学駅から電車に乗ったらすぐに続きを読みたくて、バッグパックには入れずに片手で抱えて駅まで歩いて「巴山くんの蘇鉄。」という、ちょっと尋常じゃなくおもしろいインタビューに奥歯で笑っているうちに国際展示場駅に着いてしまう。スタジオに入り、合間にこの原稿を書いていてはじめて(ふつうはかくも分厚い本を電車で読まないかもしれない)と思い当たる始末。電車では分厚いもなにも本を読んでいる人がいなくて、みんなスマホをスクロールしていたけど、それはまた別のはなし▼よくわかんないけど、もしかしたら〝分厚い〟印刷物っていうのは、デジタルにはないアナログだけの魅力があるのかもしれないです。プロジェクトSでも、小学生の男の子が分厚いカタログに付箋をいっぱい貼ってお店を訪れてくれて「これの本物を見せてください」と言ってくれたというエピソードが大好きだったりします。デジタルのよさもわかりつつ、これぞアナログ、というか、リアルな印刷物の強みで、ことプロジェクトSに関してはですが、分厚いことに意味はありそうだなぁと思いたいです。じゃないと、毎年のこととはいえ、この膨大なページ数を乗りきれないですから▼てなわけで、今週は金土日と3日間にわたっての〝週末〟で書いてみました。最後の最後に冒頭のヒゲの話はどこへいったんだ!という自問自答も急浮上してきましたが、たぶん、Official髭男dismを聴いて帳尻を合わせるのでお許しください(唐澤和也)