からの週末20200814(金)
新しい生活と禁煙と姉からの電話
▼あっつい!ですね。たぶん、もう少ししたら溶けるんじゃないかと思う▼とはいえ、もう少ししたら溶けるんじゃないか、という経験が今年は少ない。というか、ない。例年はざっと思い出しても、7月に北海道でJOIN ALIVEというフェスを取材していて、北海道とはいえあっつい!&溶けそうな時間帯はやっぱりあるし、8月のアタマはL社のポスターの撮影で(何年か前の斜俯瞰の撮影にこだわったコンセプトの時にたまたま見つけた海を見下ろせるキャンプ場は逃げ場がなくて、あの時はたしかに暑すぎてなにかが溶けた)、それに比べればクーラー効きまくりの事務所仕事はたかがしれてるとも言える▼こういうのも、新しい生活様式なのだろうか。だとするなら、自分は新しい生活というやつに慣れたのだろうか▼マスク、慣れた。手洗い、慣れたなんてもんじゃなく、洗うことがふつうになった。大阪出張がスカイプ会議、慣れた。盛り上がりすぎてうちの事務所の山岡に「うるさいです」と怒られて「すみません」としゅんとしたけど、慣れた。コロナを経ての新しい生活とは関係ないような気もするけど、マイエコバックがある生活にも慣れたし、タバコのない生活にも慣れた▼そうなんです。僕のことをよく知ってる人ほど「またかよ!」とあきれるかと思うんですが、4月1日にタバコをやめた。その頃KKJS(緊急事態宣言)が出そうで日数が重なるほど嫌な気分になっちゃうなぁと思い、とはいえ、未知のウイルスの所業なのでどうしようもなく、唯一どうしようもできる自分のできることで、かつ、日数が重なるほどいいことってないかとそれなりに真剣に考え、たぶん人生で5度目ぐらいの禁煙を思い立った次第▼4月1日にスマホに入れたアプリによれば、本日で135日間、2702本分の卒煙なのだそう。そのアプリによれば、禁煙じゃなくて卒煙のほうが〝言魂〟効果があるそう▼禁煙なのか卒煙なのか、とにかくタバコを吸わないという生活様式には慣れたのだが、前4回に比べてものすごーく違うのが、定期的に「吸いてぇ!」という魂の叫びが沸き起こること。前4回は、「あ、俺、もう大丈夫だ」と3ヶ月ぐらいで思い、半年後ぐらいに酒の席でだけ吸うというありがちな自分ルールを設定し「あ、酒の席以外では吸いたくない。もう大丈夫だ」と全然大丈夫じゃない状態に移行し、挙げ句の果てには、タバコを吸いたくて、夕方4時から飲むという堕天使ぶりが、唐澤禁煙あるあるだった▼ところが今回は、まったくもって大丈夫とは思えない。魂の叫びが沸き起こるたびに<今日1日だけ>と念じ、耐えに耐えて、なんとか日々を重ねている▼そんなわけでタバコを吸わない生活を慣れたか慣れないかの2択で選ぶのなら慣れただが、どうにも慣れないのが姉からの電話だ▼我が姉は、なかなかに豪快な借金をしたことがあり(しかも2回)、1回目の時は当時その言葉を聞くようにはなっていた「自己破産」のシステムを新幹線の移動中にアバウトに理解するも、親父の「娘の借金は俺が返す」とのまさかの男気発言で、いろんなことがひっくり返る。実は当時、僕と父親は微妙な距離感で決して仲のよい家族ではなかったのだが、そのひとことで、簡単にいうと「かっこいいぜ、親父!」と息子は思ってしまう。そして、居心地もいいし、お世話にもなっていた編集プロダクションをやめてフリーランスの道を目指すことになる。姉貴のなかなかな借金は親父がほとんど返したのだが、長男として少しでも足しになればと仕送りを増やし、そのためには働いた分だけ稼げるフリーランスのほうが都合がよかった。見方を変えれば姉貴の借金は、父と息子の関係性だとか、可能性としてはその編集プロダクションの副社長ぐらいになってたかもしれないという僕の人生も、いろいろとひっくり返したのだった▼ただ、こういう家族とお金の問題は、借金をした当事者というのは、あまり懲りない。いろいろな人と家族とお金の話をしたけど、どこも似たようなもので当事者は同じ過ちを繰り返す。実際うちの姉貴も2回目の借金をしてしまったし(さすがにその時は自己破産してもらった)そりゃあ昔は仲のよかった姉弟でも隙間風がビュンビュン吹く。俺はいいけど、親父には毎月少額でもいいから返していきなよと言ったのに約束を守ったのなんて数年のことだったし、なんなんだと。正直に言えば、肉親だからこそ嫌いになっていた▼なのに、アフターコロナですよ。びっくりな新しい生活様式ですよ▼最初に変わったのは僕のほうで、ある日、なんだか急に昔の借金のこととかどうでもよくなってしまい、そういう姉貴のマイナス面よりも、親父が体調崩した時に病院に車で運んでくれたよなぁとか、「長男のくせに」なんて一度も言うことなく、俺の仕事の応援をずっとしてくれてたよなぁとか、なんだかプラス面にピントが合ってしまったのだ。そして、なんの用事もないのに電話してしてしまったのが1週間ほど前のことだった▼銀行強盗と人質の不思議な関係性を「ストックホルム症候群」と分析できるように、コロナ禍における僕のこのような心理変化も専門家は分析できるのだろう▼専門家ではない僕は分析などできないけど、この新しい生活様式が一番慣れない。2日前にも電話がかかってきて、たわいのないことをあれこれと話したけれど、慣れない。慣れないし、なんだかもぞもぞするけれども、少なくとも嫌じゃないのが不思議だ(唐澤和也)