うたかたのパンチライン vol.1
地元に帰省すると帰りしなに喫茶店に寄ります。
新横浜行きの新幹線に少しだけ余裕を持ってまったりするのは、両親の前では吸えないタバコをくゆらすため。十代か!って話ですが、数年前から実家ではタバコを吸わないようになりました。謹厳実直を絵に描いたような父(正直と書いてまさなおと読む)から、少年期〜青年期にかけては怒鳴られまくったわけですが、さすがにお説教の類がなくなったおっさん期以降も「タバコだけはやめろ」と帰省する度に怒られるのです。かつては鬱陶しかったお説教というものですが、ある時期からありがたく感じられるようになりました。仕事でもふだんの生活でも、あんまし怒られませんから、おっさんは。
そして、おっさん率がやけに高い地方都市の喫茶店。
その日も、世間じゃ正月三ヶ日が明けたばかりのお休みモード中だというのに、僕の席の向かいにおっさん、右側にはおっさんふたり組。おっさんと言っても年齢層は幅広いので細分化すると、なぜか中学生向けの英語の参考書を開いたままページをめくらずにアイスコーヒーのストローを呆然とくわえていた向かいのおっさんは五十歳前後、右側のふたり組が七十代前後。あれ? 世間じゃ七十代前後はおっさんじゃなくおじいちゃんか。
ま、そんな大先輩おっさんふたりが、なにかの反省会をしている様子が印象的でした。
向かいのおっさんは「これぞ、思考停止!」している様子が若干怖いので、何日かぶりのタバコにクラっとしつつ、大先輩たちの反省会の内容に右耳が持っていかれたのでした。
なのにですよ。
なんのことはない、彼らの反省ポイントは、「なぜ我々は、今日のパチンコに負けたのか?」でした。いやいや、なかなかのため息をついてるから、余計な心配してたのにパチンコって!
さらに、大先輩おっさんその1が、ブッダが悟りを開いたかのような<俺はようやく真理がわかったよ>とでも言いたげな表情でこうつぶやいたのです。
「年金じゃ勝てねぇ」
うん。そのとおりですよね、先輩。でもなぁ、大先輩たちは、次の年金が振り込まれたらまた行っちゃうんだろうなぁ。
(文/唐澤和也/2020.3.24)