からの週末2020711(土)
逢いたくなる映画は傑作かも論

▼今週ふと思ったのは<傑作の条件ってなんだろう?>だった▼きっかけは、映画。毎度おなじみ中目黒TSUTAYAでレンタルした『パラサイト』。アジア初の快挙=アカデミー賞作品賞をとった韓国映画。初見ではなく2度めの鑑賞で、昨年の映画館での初見時は、えっらい興奮して〝あの入り口からどこに連れてってくれとんねん!〟と、おそらくは微妙に間違っているエセ関西弁で絶賛したほどの映画だった。ところが、2度めは〝すん〟。いや、もちろんおもしろい。父親役で主役のソン・ガンホなんて、ラストに××する前にすでに××する顔になってて、マジで怖い。でも、なぜなんだろう。〝すん〟だったのだった▼それで考えてみた。<とりあえず映画でいうと俺の傑作の定義ってなんなんだろう?>と。で、思った。<あぁ、繰り返し見たくなる映画だ!>と▼『パラサイト』きっかけなので、韓国映画つながりでいうと『新しき世界』というヤクザ映画が数年前から大好きで、世間でいうところの師走の歌=第九ばりに、年末の締め映画として毎年繰り返し見ている。だから、物語の展開も全部わかっている。なのに、いっつもドキドキする。主人公にとってのアニキ(ファン・ジョンミン)がカッコよすぎて、怖すぎて、切なすぎて、逢いたくなるのだ▼……って、ここまで書いてきてちょっと興奮してきた▼▼▼(落ち着け)▼▼▼はじめて気づいたかもしれない。僕にとっての傑作映画の条件は<逢いたくなる>ではないか。<繰り返し見たくなる>が条件なのかもと最初は思ったが、逢いたくなるがまずあって、結果的に繰り返し見てしまうというほうがしっくりくる▼もちろん、傑作映画の条件は人によって違うだろう。僕の映画の師匠であるTくんにこの条件について聞いてみたら「ひどい人生だったはずなのに報われる映画」とのこと。なるほど。たしかに、ジャンルが傑作たりうる条件の人も多そうだ▼かえすがえす、いろんな人がいていろんな条件があるだろうが、あえて<逢いたくなる>と僕の条件と同じにしても、ヤクザ映画よりも恋愛映画の登場人物たちに<逢いたくなる>人もいるだろうし、なんだったら『新しき世界』よりも『パラサイト』のほうが逢いたい度が高い人だっているに決まっている。登場人物よりも、近未来SF映画のように世界観に逢いたい(触れたい)人だっていそうだ。そもそもが映画は総合表現なので〝あの場面のあの曲に逢いたい!〟なんて楽しみ方もあるかもしれない▼自分のなかだけでいえば、そういう総合的な部分はもちろんあるとして、でも、最優先はキャラクターだ。それはたぶん、自分のエンタメ原点が漫画だったからだと思う▼先週の〝週末〟に書かせてもらったように、笑いとヒップホップが屋号の由来ではあるのだけれど、テレビを見ちゃダメな家庭に育った僕は(たぶん、めちゃくちゃ特殊じゃなくて、僕ら世代には意外と多いはずです)、漫画だけが娯楽だった気がする。同じ県営住宅に住んでた廣田直樹くんと1巻交代で『ドラえもん』のコミックスを買っていた頃から漫画だけは親の目を盗んで楽しめる娯楽だった。奇数巻所蔵の廣田くんと、偶数巻所蔵の僕。県営住宅B棟の1号と4号だったから、行き来するのなんてダッシュ10秒と楽勝で、繰り返し読んだなんてもんじゃなかった。いろんな巻のいろんなのび太に逢いたかったし、実際にしょっちゅう逢っていた▼そう考えると、物語や、いわゆるオチまでもがわかっている落語をみんなが繰り返し楽しむのも<逢いたくなる>からかもしれない。僕の場合は、なぜか落語はキャラクター最優先ではなく世界観丸ごと逢いたくなるようで、立川志の輔さんの「抜け雀」とか名人が登場する噺になぜか弱くて、定期的に聴きたくなる▼そう考えると、の、さらに、そう考えてみると『鬼滅の刃』って、最強の逢いたくなるコンテンツだ▼『鬼滅の刃』愛読者に会うたびに「好きなキャラクター」を聞いてきたのだけれど、その質問が10を超えても、全員が全員違うことを言う。つまり、好きなキャラクターがみんな違う。すべからく傑作と呼ばれる漫画は、魅力的なキャラクターがかなりの数存在するものだが『鬼滅の刃』の魅力的キャラの複数性も間違いがない▼しかも、あの世界観がまた絶妙。多くの人が評しているように、大正時代という設定はもちろん絶妙だし、生の世界と死の世界の狭間のなさとスムーズさや(胡蝶しのぶが上弦の弐に強烈なひとことをかます場面など)、ごくごく自然に時を超越しちゃう世界観(主人公・炭治郎は先祖の記憶を通して、江戸時代を生きた大先輩剣士の人生を追体感できる)もすごい。すごいし、実はちょっと奇妙だ。異なことなはずなのにスムーズだからこそノイズがあって魅力的で『鬼滅の刃』独自の世界観につながっているように思う。キャラ秀逸、世界観がちょっと奇妙でクセになるとなれば、そりゃあもう圧倒的に逢いたくなるに決まってる(唐澤和也)