からの週末20211003(日)
不動産物件の「特典付き」ってなんだろう?
▼まさにタイトルどおりの疑問符が頭上に舞い降りたのは、事務所までの道のりを遠まわりして散歩していた月曜日のことだった。のちに関東にも影響を及ぼす台風16号は、まだまだ遠い存在で、はっきりとした台風の目が危険を知らせていた頃。雨は降っていなかった。というか晴れていた。天気がいいと、なんてことはない散歩も興にのってくるってもので、ふと目に留まったのが不動産の物件情報。これまた、なんてことはない間取りの、なんてことはない2DKの物件。だがしかし「特典付き!」と目立つように手書きされた文字が、なんてことはなくはなかった▼特典付きですか? 不動産物件なのに? ひとり大喜利状態でとっさに浮かんだ答えが「気だてのよい嫁」だったのはさておき、不動産物件の特典とはいったいなんなのだろう。うちの事務所がそうなのだけれど、備え付けの冷蔵庫や洗濯機のことなのだろうか。それともインターネット回線がすでに完備されているとか? いっそのこと敷金礼金ゼロとかなのかな。いや、なんだかどれも「特典付き」という言葉ではくくらないような気がする▼そんな月曜日から、早いもんで週末である。日々を重ねていま気になっているのは、不動産物件の特典のことではなく、そもそも私という人間はどのような特典に惹かれるタイプだったけかなぁという振り返りだった。子供の頃に流行っていたグリコのおもちゃなどにもさして興味を持った記憶がない。大人になってからもそう。CD購入時のポスターやステッカーといった特典も、帰って捨てるのが申し訳ないとはいえ、もらわないという特典拒否権すら発動してきた気がする▼私の人生は特典歓喜経験なしなのか。なんだか寂しいぞ。いやいやなんかあったはずだろうと、バームクーヘンのような記憶の断層をめくってみたのだが、あれはどうだろう。2年ほど前にコンビニで買っていまも愛用している、最新科学が生んだとかいう独特なフォルムの安眠枕的なアイテム。当初は本のおまけ(特典)のような体裁だったけれど、最近では本すら付いてなくてモノだけを売っているあの流れの逸品▼いや、本は付いていたのかな。まったくもって記憶にないが、その時点でもはや「枕」を買ったわけで、特典じゃない気がしてきた。なんだか悔しい▼それでもとバームクーヘン的記憶の断層をめくってめくって、もはや中心の空白部分にたどり着いた時、ようやく思い当たる特典があった。それは、映画のDVDの特典映像。たとえば、クリストファー・ノーラン作品のいくつかの特典映像なんて、本編観賞後のかなりのお楽しみで、特典映像を見たことでもう一度本編が見たくなってノーラン祭りになったこともある。「私と特典」というテーマなら、映画のDVDの特典映像に決まりということになりそうだ▼ところで、バームクーヘンがなくなるほどに記憶をさかのぼったことだし、特典という言葉をもう少広くとらえてみると、「ビール」というアイテムが真っ先に思い浮かんだ。例の「仕事のあとのビールは最高」という常套句で語られる意味における、仕事の特典としてのビール。個人的には37歳までビールが飲めなかったので、自分の変わり身にびっくりするが、しゅわしゅわと生きているかのような黄金色の液体とクリーミーな泡のハーモーニーーが、仕事終わりの特典であることにもはや異論はありません▼ベタといえばベタな表現である「仕事のあとのビールは最高」なんてことを真っ先に思いついたのは、つい先日まで緊急事態宣言下だったからかもしれない。ベタを日常とするのなら、緊急事態宣言は非日常であり、ベタから遠い状況だとも言える。もちろん、その期間中にも、仕事終わりに自宅で缶ビールを傾けることはあったし、合計で1111円になってなぜだかテンションのあがる黄金の組み合わせを発見したりもした。それでも、である。せっかく宣言が解除されたというのだからお店での特典感を味わいたかった。ベタを味わいたかった▼というわけで、宣言が解除された10月1日の金曜日の夕方に仕事を早々と終えて堪能したのが特典の小、つまりは小ビールだった。地元の蕎麦屋で天ざると一緒にひとりでいただいたそのささやかな特典は、いやはやなんとも久しぶりに特別な特別感を味わせてくれたのでした(唐澤和也)