からの週末20210903(金)
こんにちはエヴァンゲリオン

▼そういえば、クリームシチューの味が薄かったなぁと思い出したのは、今週月曜日の昼すぎのことだった▼日曜日に受けた2度目のワクチン接種、その副反応に備えて翌日は在宅ワークでいけるよう調整していた。が、朝の検温では36度2分とド平熱。事務所に行くことも考えたけれど、でもまぁ、念のためぐらいのテンションで在宅しようとノートPCに目を通せば返信が必要そうなメールは1通のみ。うむ、暇だ。よし、昼寝なんぞもたしなみつつ、のんびりしよう▼ところが、昼ごはんを食べてしばらくしたあとの検温で「ん?」となる。37度2分。微妙な微熱。だがしかし、まわりの副反応体験談を聞いているとそこからガッと38度以上にあがる人もいると聞く。そういえば、日曜の夜に食べたクリームシチューの味も薄かった気がする。もしかしたら、昨夜から副反応の前兆があったのかもしれない▼火曜日に大きな仕事を入れてしまっていたことをちょっぴり後悔しつつも、おでこに冷えピタを貼ってみた。寝よう。朝の検温の時に思ってたのとはカタチが違うけど昼寝だ。布団を敷いて横になった途端に、そういえばアイスノンも冷凍庫にあった気がすると思い出して枕の上に置く。若干37度2分ごときで冷えピタ&アイスノン。大袈裟にすぎる気もしたが、身体は疲れていたのか、目を閉じるとあっという間に夢の世界だった▼2時間ほどの深い眠り。気分的には超リフレッシュするも、体温計の数字は37度2分と変わらない。うーん、どうしたもんか。ま、安静にしておくのが一番だろう、でももう眠れないなぁと、ふと思いついたのが、録画スルー状態だった『さようなら全てのエヴァンゲリオン』だった▼毎週楽しみにしているNHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』の庵野秀明編がすさまじいドキュメントで、そちらに新たな映像やインタビューを加えて再編集した100分の拡大版がBSで放送されると知り、楽しみに録画していたのだった。とはいえ、エヴァンゲリオンはテレビアニメからこっち、最近の映画版まで一切見たことがない。興味がないというより、完全に乗り遅れてしまっただけだと思う。けれど、庵野秀明という表現者にはもちろん興味があって、実際に見た100分の拡大版もえげつなかった▼エゴってなんなんだろう。一番考えさせられたのはそのことについてだった。ドキュメントのなかで庵野秀明は「肥大化したエゴに対するアンチテーゼ」とご自身が反エゴであることのイズムを語り「自分の外にあるもので勝負したい」と個人戦でなく団体戦として、最後のエヴァと向き合っていることを告げる。でも、参加しているスタッフの顔に浮かぶ色ははっきりと困惑のそれ。どう思うかと庵野さんに聞けば「わからない」。もう一歩踏み込んだ回答が「これじゃないということがわかった」という雲をつかむようなお答え。おそらく、庵野秀明という才ある人物の答えでなければ「わかんねぇじゃねぇよ! 禅問答か!」「これじゃないということがわかったんならどれだよ!」などと怒涛のツッコミが止まらないやりとりだろう。でも、スタッフたちは口を閉じてぐっと結び、霧の中を模索する。彼らを支えているのは、エヴァという傑作に参加できていることの誇りと矜持なのか、あるいは天才への信頼か。彼らの本音はわからないが、その団体戦の苛烈さから目が離せない▼この苛烈さは、安静しなきゃなタイミングで見るもんじゃないなとも思ったが、いまさらもう無理だ。めんどくさいので計らなかったけど、上がりまくったテンションとともに体温も上昇していたと思う。そんな微熱状態のなかで見つめたテレビの中の庵野秀明は「僕がやりたいことをやっているわけじゃない」、すなわち作品中心主義であると反エゴな姿勢を貫いていた。ものすごくあげあしを取るならば、いやいやその作品中心主義の中心にいるのは監督である庵野秀明なわけでやっぱりエゴじゃんと言えないこともないが、100分のドキュメントから感じるのは、もしもこれをエゴと呼ぶのなら、こんなにも身を削るエゴは見たことがないということだった▼そうなのだ。スタッフも霧の中できつい作業だっただろうが、もっとも濃い霧の中で静かにのたうちまわっていたのは庵野監督自身であった▼『さようなら全てのエヴァンゲリオン』を見終わって決めたのは「こんにちは」だった。近い将来、少なくとも劇場版の4作のエヴァを私はワクワクしながら観ることになるだろう▼その後、何度か体温を計ってみたものの、まるでよく効くブレーキがついているかのごとく、ピタッと37度2分だった。これはもう、たぶん大丈夫なやつだ。下がらないのはじれったいけど、上がらないんだったらもういいや。夜の7時頃だったか、突然にそんなふうに開き直れた。よし、晩ごはんだと日曜夜のクリームシチューをあたため直していて、その流れで冷蔵庫を開けて気づいてしまう。ウソでしょ? クリームシチューに牛乳を入れ忘れてるじゃん。だってあるもん、冷蔵庫の中に買ったまんまの牛乳が。そりゃあ味も薄いはずだし副反応じゃなかったのね。その時の気持ちを平仮名で表記するとぎゃふんだったけれど、牛乳を加えた「シン・クリームシチュー」はめちゃくちゃ濃くて前日に比べるならばびっくりするほどおいしかった(唐澤和也)